いであつしの 『hibidasu』
◎ 福岡翼と赤鬼の棲む酒屋
某月、某日。冷蔵庫を開けたら缶ビールをきらしていたので、近所の酒屋さんまで買いに行ってくることにした。
近所に酒屋さんは2軒あり、一軒は商店街を歩いて下ったところにあって、ちょっと歩かなくちゃならない。もう一軒はウチのマンションのすぐ裏にあり、ここは酒屋が始めたコンビニ形態の店で遅くまでやっている。
近いし、便利なのは2軒目の方なのだが、しかしここの亭主とオババというのがすこぶるセコくてがめつくて感じが悪〜い夫婦で、ウチではできるだけここは非常時以外はなるべく利用しないことにしているのだ。
亭主の方は福岡翼みたいな顔をしていて一見人が良さそうなのだが、その顔にだまされて、前に一度「今度、ハイサワーのライム入れてよ」と親しげにお願いしたら、「あれは仕入れても買う人がいないから」とキッパリ断られてしまったのだ。福岡翼は人情よりも売り上げのことしか頭にない。
この福岡翼をいつも尻に敷いているのがオババだ。顔にキッツーい頬紅を塗っていて、3センチぐらいはあろう伸ばした爪に真っ赤なマニキュアを塗りたくっているオババの方は、ウチでは「赤鬼」と呼んでいる。
赤鬼は福岡翼にもまして人情よりも売り上げのことしか頭にないドケチで、客がいない時は、いつも店の奥の「のほほん茶」の暖簾の向こうで電卓をカチャカチャとたたいている音がしている。また、どんなに缶ビールを何本買おうとも、絶対にメーカーから配られたオマケのカップの類は付けてくれないのだ。なのにレジの前には、いつも新製品が出るたびにメーカーから配られるオマケのカップがこれ見よがしに飾られてるんだよね。
こんな夫婦がやってる店だからして、店のバイトの若い子たちは、やれワインの瓶の配置が悪いだとか、それ食品棚の補充してないだとか、いっつも赤鬼と福岡翼に細かいとこまで注意されていて、同じ子が一か月続いたとこを見たことがない。たぶん時給の割にものすごくコキつかわれてるに違いない。
そんなわけで今日も、赤鬼と福岡翼のところではない方で缶ビールを買った。