いであつしの 『hibidasu』
◎ H先生のパネライについて
ウチの近所に「H医院」というお医者さんがあって、風邪をひいたりするともっぽらここにお世話になっている。
このH先生、歳はオレよりも2、3才ぐらい上で、腕も確かだが、風貌はやたら若いイマどき風なのだ。奥さんも一色冴子に似ていて、ローライズのジーパンがよく似合う小尻のスゲェー美人。時々、近所で一色冴子と歩いているとこと会ったりするのだが、白衣を脱いだ普段着のH先生は、格好も絵に描いたようないわゆる「ブリオ君」なのである。
一度、薬を出してもらっている時に医院の玄関口にあるH先生の靴箱をチラリと覗いてみたら、プラダのスニーカーや「サントーニ」じゃなくて「エルメス」の方のレザースニーカーとか入っていたのをオレは見逃さなかったしね。で、「先生、いい靴、履いてますね〜。これ、サントーニじゃなくてエルメスの方でしょ?」とカマをかけてみたら、また言うことがニクイね。「そうなの?よくわかんないで買ったんだけどね」と、さらりとかわわされてしまった。オレの負け…。
先生がブリオ君だということについては、待合室に置いてある雑誌の傾向でもウスウスは感づいていた。「ブリオ」はもちろんのこと、「ビギン」、「マンスリーエム」、「ペン」といった、いわゆるまぁその手の雑誌ばっかり。しかもどうも毎号買ってるわけではないらしく、「世界が認めた銘品時計特集」だとか「怒涛のブランドウォッチ特集」だとか、そういう特集の号がお好きだと、オレはみたね。
そして「ウーム、これはもうマチガイないな」と確信したのは、こないだ風邪をひいてしまってH医院に行った時だった。
「じゃ、薬出しときましょうね」と言ったH先生のその腕には、なんと「パネライ」が燦然と輝いておるではないか。それでなくても普段から「アイクポット」だとかいつもバカ高い時計をしているのだが、そうか先生、ついにとうとうパネライまで到達したか。
オレはすかさず「あ、先生、パネライ買ったんですか。いいなぁー。それ、ラルフローレンも同じやつをしてるんですよね。オレもさぁ、ロレックスなんか欲しくないからパネライなら欲しいなぁ〜」と言ってみた。
するとH先生ったら、よくぞ気づいてくれたとばかりに、もう語りだす語りだす。
「僕もね、ロレックスは全然欲しいとは思わないんだけど、これは前からずっと欲しくってね。でも品薄で今どこにも売ってないんだよね。これはこないだ渋谷でたまたま1個だけ売っていたのを見つけたのよ」
オレは熱が38度近くあるってぇのに、H先生のパネライ話をえんえんと聞かされながら、薬をもらって帰ったのであった。ロレックスだっていっぱい持ってるくせに。
(2003.2)